広島の高卒投手育成の問題点を考える

チーム分析

佐々岡政権となった2020年以降、毎年チーム防御率は5位に低迷しているように、投手力は広島の大きな課題の一つです。
なぜ投手力が低迷してしまっているのかを考えると、大学・社会人出の即戦力に近い形の投手の戦力化は出来ているものの、素材を育成して戦力にしていく色の強い高校出の投手については、なかなか戦力化出来ていないという側面が、それなりに大きな影響を及ぼしているように思います。

先日Twitter上で分析のお題を募集した際にも、高卒投手の育成についてのものを頂いたこともあり、本稿では近年上手く運んでいない広島の高卒投手育成について、掘り下げていこうと思います。

WARから見る高卒投手育成

広島の高卒投手育成が近年苦労していると述べましたが、実際他球団と比べるとその状況はどうなのでしょうか?
広島だけ見ているとあまり育ってないように見えますが、他球団と比べるともしかすると育成状況は良いのかもしれません。
そこで、2013年以降(21年まで)のドラフトで獲得した高卒投手に絞り、その高卒投手がどのくらいWARを積み重ねたかを球団別に見ていこうと思います。

こちらが獲得人数、WARをまとめたものになりますが、広島のWAR8.4は日本ハム、阪神、ソフトバンクに次ぐNPBワースト4位と、イメージ通り高卒投手を戦力化出来ていないことが分かります。
ただ、阪神の場合は獲得人数が非常に少なく、一人当たりが稼いだWARという観点では、広島を上回ることから、広島は阪神以上に高卒投手を戦力化出来ていないと言えそうです。
加えて、ここでは2013年以降のドラフトを対象としていますが、その前年に範囲を広げると、阪神は藤浪晋太郎、日本ハムは大谷翔平をそれぞれ獲得しており、他の下位球団と比べても広島は高卒投手で代表クラスの大物を近年獲得、育成出来ていない様子が窺えます。

獲得人数の観点から見ると、広島の18人は育成枠で多く獲得している巨人、ソフトバンクの28人に次ぐ多さとなっており、決して大学・社会人出の投手ばかり獲得しているわけでもありません。
その割に同じ人数獲得しているオリックスには、WARで大差を付けられてしまっており、多く獲得はしますが他球団と比べてもなかなかモノに出来ない、苦しい状況にあることが滲み出ています。

なぜ近年高卒投手の育成が上手くいかないのか?~素材の問題~

では、なぜ広島がこのように高卒投手の育成に苦戦しているのでしょうか?

まず最初に考えられるのが、そもそも天井の高い、プロでも活躍出来るほどの資質を持つ投手を獲得出来ているのか、という点です。
いくら多くの投手を獲得しようとも、根本的に素材が良くないと能力を引き上げていくのは難しいように思います。
そこで、素材の良さを測る指標として完ぺきではないですが、ドラフト順位を用いることで、評価の高い投手(上位指名投手)にしっかり枠を割けていたのかを確認していこうと思います。

こちらを確認していく前にそもそもですが、上位指名投手は中位から下位指名投手と比べてどれほど活躍出来ているのでしょうか?
まずは指名順位ごとのWARの総計を確認してみましょう。

指名人数では2位のところが大きく凹んでいますが、1位と3位から6位まではいずれも20名以上が指名と、大きな偏りなく指名されている様子です。
その中で最も多くのWARを稼ぎ出しているのが1位指名の投手で、25名で88.3ものWARを記録しています。
その下には、山本由伸や平良海馬が指名された4位指名、二木康太や戸郷翔征が指名された6位指名、田口麗斗や高橋奎二が指名された3位指名が続いている状況です。
また、毎年NPB全体の上位10数%にあたるWAR2以上記録経験者を見ても、1位指名の投手は実に8投手が記録した経験のあることから、誰かが偏ってWARを稼いでいたのではなく、多くの投手が満遍なくWARを稼いでいたことが窺えます。

ということから、2位指名以下は順位通りの傾向は見られませんでしたが、1位指名に関してはやはり活躍している投手が多いことが分かりました。
ということから、後に活躍を期待出来る高卒投手を獲得する率を高めるには、とりわけ1位指名の枠を割いて、そこに値する投手を指名する必要がありそうです。

という結果を踏まえて、広島の高卒投手の指名順位を見てみましょう。

2位指名こそ16年の高橋昂也と17年の山口翔の2名いますが、1位指名はこの期間0人で、2009年の今村猛まで遡る必要があります。
また、上位指名にあたる2位指名の両投手も、山口は既に戦力外となってしまい、高橋昂も当初の期待とは裏腹に先発ローテに定着出来ず、WARにすると1.3と苦しい成績となっています。
中位から下位にあたる3位以降も、他球団ではそれなりに活躍を見せている投手が見られますが、広島の場合では17年6位指名の遠藤淳志が戦力となっているくらいで、WAR2以上を記録した投手も不在という状況でした。

以上より、広島は2位以降で満遍なく指名こそしているものの、そもそも1位指名の枠を割いてまでは高卒投手を獲得しておらず、器の大きな好素材投手を確保出来ていないのも、高卒投手が出てこない一因と言えそうです。

なぜ近年高卒投手の育成が上手くいかないのか?~育成の問題~

1位指名の枠を割いていないように、好素材投手を獲得出来ていない現状があることが分かりました。
しかし、問題はそこだけでなく、育成の方にも少なからず問題はあるように思います。
他球団は下位指名からも戦力となる投手を輩出していますし、何より数多くの高卒投手を獲得しているにもかかわらず、そこから戦力となる投手を作れていないのは大きな問題でしょう。
そこで、次は育成力という観点から、広島の高卒投手がなかなか戦力とならない要因を解き明かしていきます。

投手の育成を確認する上で最も分かりやすいのが、球速の部分ではないかと思います。
高卒で入団して、そこからしっかりプロ仕様の身体を作り上げることで、球速が向上するケースはよく見られるものでしょう。
入団してからどれほど球速を伸ばせているかを見れば、育成力をある程度測れるのではないでしょうか。
ということで、広島が指名した高卒投手がどのような平均球速の変化を見せていたのかを確認していきます。

薄緑は二軍戦登板時の平均球速 22年藤井皓哉はソフトバンク所属時の数値

各投手の一軍での年度別平均球速推移がこちらになります。
全体的に一軍デビュー時からグッと伸びている投手がなかなか見られず、最初がピークといった投手も何名か見受けられます。
また、近年高速化が顕著に進んでいる中でも、平均で140㎞そこそこしか出せない出力の投手が多く、高卒投手という点に限ってはトレンドに乗れていないと言えるでしょう。

最初に一軍登板を果たしたシーズンと、その後のシーズンでの最高平均球速を比べてみると、3㎞以上平均球速を上げたのは塹江敦哉、高橋樹也の2名のみで、多くの投手は球速を上げられていないことが分かります。
広島在籍時は最速の平均球速が144.1㎞だっと藤井皓哉が、一年の独立リーグでのプレイ期間をおいてNPB復帰した昨季に平均151.1㎞まで上げているのを見ると、各投手のポテンシャルを活かしきれていないのが現状と言えそうです。

参考程度にWAR2以上を記録した経験を持つ投手の平均球速推移も確認してみましょう。

薄緑は二軍戦登板時の平均球速 田口はリリーフ専任の19年と22年の平均球速を比較

実に16投手中11投手が、3㎞以上の平均球速の向上に成功しています。
そもそも球速の速い投手が多いのもありますが、それに加えてトレンドに乗って平均球速を上げているのも活躍出来ている要因なのでしょう。

上記に付随する話になりますが、元々球速の速い投手が少ないのも、広島の高卒投手がなかなか出て来れない一因ではないかと思います。
近年は入団時点で平均140㎞台後半を記録するような投手も出てきており、元々高いスピード能力を持った投手は決して少なくありません。
広島の高卒投手で元々高いスピード能力を持つ投手を挙げると、高卒2年目の16年時点で平均145.9㎞を記録していた塹江、高卒ルーキーの11月での先発登板で平均145.6㎞を記録した小林樹斗くらいです。
平均球速を上げるのにも限界はあるわけで、育成だけでなくこの辺りにも素材の問題はついてくるわけです。

まとめ

以上より、素材面では1位指名で好素材の確保に走らなかった+スピード能力のある高卒投手を確保出来なかったこと
育成面では獲得してきた高卒投手の平均球速を伸ばせていないこと、の2つの面が近年高卒投手の育成に苦労している要因と言えるでしょう。

ただ、このオフには平均球速を伸ばす取り組みがチーム全体でも奨励されているように窺え、チームとしての方向性もトレンドに乗っかる方向に動いているように思います。
ですので、近い将来高卒投手から主力投手が台頭することもあるかもしれません。

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データ参照

1.02 Essence of Baseball
1.02は総合指標WAR、守備指標UZRをはじめとしたプロ野球(1・2軍)の詳細データ、またセイバーメトリクスを用いた分析コラムを発信する総合野球データサイトです。

コメント

  1. mplrs.com より:

    Thanks for the post!

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